こんにちは、旅ガラスです。
2022年山口例会D「やまぐちの酒業界の新しい波」に参加してきました。
海外の日本酒ブームの立役者の「獺祭」さんと、老舗のクラフトビール「山口地ビール」さんのお話を聞きました。
そもそもソムリエ協会の例会ってどんなことやるの?
ほとんどが1時間授業、1時間テイスティングのだいたい2時間構成です(2時間テイスティングの時もあります)
内容は47都道府県で共通テーマが3つ、各都道府県の独自テーマが1つ。そのため年4回各都道府県で実施されてます。タイミングと席さえ空いてれば他県に参加OKなので、旅ガラスは2022年度の九州・中国地方の独自テーマは全て参加。四国も参加予定ですw
一般の参加は1回6000円です。
協会員は年会費15000円で例会参加費は無料です。
3回以上参加するなら元は取れる計算ですね。実際出てくるお酒のクオリティも高いので、お酒の量より質を楽しめる方なら6000円はもはや実費、プロ中のプロの解説に価値を見出せる人にはかなりお買い得価格になってると思います。
個人的には各講師の持つこぼれ話が貴重です。実体験やどういう感覚でテイスティングしてるのか、どんな背景があったのかなど聞けて非常に勉強になります。
まさにここでしか聞けない話、特に独学でお酒の勉強してる人にとっては嬉しい限りです。
独自テーマってどんな内容なの?
各都道府県でフィーチャーしたいテーマです。もしくは特別な講師の方がいらっしゃる場合はその人が解説をしてくれます。
2022年度の中国地方のテーマを上げると・・・
- 島根県:島根県産ワインの可能性を探る
- 鳥取県:山陰ワインのテロワールと将来性
- 山口県:やまぐちの酒業界の新しい波
- 広島県:明治期の酒造りからみる広島酒のルーツ
- 岡山県:岡山における自然で持続可能なワイン造り
セミナー前半/山口地ビールについて
今回の講師はこちら!
- 桜井 一宏 氏 旭酒造株式会社 代表取締役社長
- 中川弘文 氏 山口地ビール株式会社 代表取締役社長
- 田崎 真也 氏 一般社団法人日本ソムリエ協会 会長
これまた豪華なラインナップ。日本酒×ビール×ワインのプロフェッショナルがそろい踏みです。
前半は地ビール。
お恥ずかしながら旅ガラス、日本のクラフトビールの歴史は全然知らなかったんですが、現在のブームは二回目だそうです(笑)
第一次は1994年にビール製造の規制が緩和されて小規模ビール生産が法律で可能になって増え、山口地ビールさんは1997年に創業。日本で100社目ぐらいとのことです。
そこから一度廃れて多くのビール醸造所が廃業。近年再度ブームが復活、現在600社くらいビールを醸造してる会社があるようです。
一度廃れた原因は、多くのクラフトビール会社が低品質だったためだそうです。お土産くらいでしか売れない。しかし近年技術革新/共有などが進んで、どこも一定のクオリティはクリアできているそうです。なんか日本酒でも聞いたような話ですねw
「山口地ビール」さんはそのふるいを乗り切って第一次ブームから進化を続ける老舗ブランドになります。もう一人で2時間語れるくらい熱くチャレンジ旺盛な社長さんでした。
印象に残るお話が多かったので、テイスティングは3種類と一緒に紹介していきます
「山口の麦」/業界大手の協力
ピルスナータイプとは思えないフルーティーなワインでした。甘ったるいとかは全然なく、柑橘系の爽やかな香りが楽しめて、かつ麦の香ばしさもしっかり出たタイプです。
国産にこだわっており、麦は山口県産の「サチホゴールデン」という品種
ホップは海外産が多い中、東北地方で生産してるものを使用
水は鳴滝天然水を利用。別称「龍の涙」と言われているそうです。これに関しては工場設置時にかなりこだわって、田舎に工場を構えたそうです。中軟水
将来的には全部山口産を目指していて、ホップの自家栽培も始めているそうです。ホップなんてそれこそビール工場でしか見たことがないので、原材料が直接育っている所を見れるのはなかなか面白いです。
料理は焼き鳥や塩唐揚げなど推奨しているようです。青ネギの入ったちり鍋をポン酢で食べるのも合いそうと会長は話してましたね。
ちなみに精麦はキリンビールさんから、大手じゃないと難しいなか技術協力してくれてる唯一の大手ビールメーカーだとか。ホップに関しても東北地方の農家さんに教わりながら自家栽培を頑張っているんだとか。
こういった協力ってライバルが増えることに繋がるのでやってくれないのが一般的。ビール業界の発展及びレベルアップのために助け合いがあるのは素敵だと思います
これからこういう原料の原産地に拘ったビールが増えていくともっと面白くなりそうです。
「山田錦ラガー」/新しい試み
日本酒の酵母を使って発酵、および精米歩合60%の山田錦を溶かして仕込んだビール。日本酒のようにお米を炊いた香りがします。
眼を閉じて香りだけ楽しむ分には日本酒と勘違いしそうな気がします。フルーツの香りは控えめで、麦とお米の香りのコラボレーション。
すごく面白い味でした。普通は副材料にフルーツやスパイスを加えることが多いそうなんですが、お米を加えるって面白いです。日本酒のようなビール。
こういう自由なお酒造りができるのはクラフトビールならではかなぁ。柔軟な発想で新しいスタイルのお酒を沢山生み出して欲しいなぁと思いました。
「萩ゆずエール」/テロワールの可能性
山口県萩市のゆずを利用した、悪く言えばよくあるタイプの柑橘系の香りがするビール。
今回飲んだのは非常に柚子の香りが濃い!柚子をちょっと絞ったとかではなくて、柚子果汁100%を作ったときに感じる香りでしょうか。タンクが詰まったりと生産が非常に大変だったそうで、柚子を入れて醸造したそうです。
よくある柚子エキスを入れてさっぱり仕上げました!という柑橘ビールとは一線を画す味、と言いたい所ですが・・・
冷静に味をみたときには柚子エキス入れただけとかの「隠し味」的なアクセントの方が好きな人多いのかなぁと思います。
ビールが主体というよりは、ゆずが主体でビールのシュワシュワ感があるイメージです。個人的には柚子フレーバーなビールより好き。そして柚子本来の味が出ているので、やっぱりポン酢系の料理が良く合うかなぁと思います。
将来的には山口地ビールでは山口県産の素材のみで作る、テロワールを意識したビール造りに舵を切っているように思えます。おそらく他のビール会社がやってない試みかと思います。
具体的にそれがなんなのか、と言われるとまだ片鱗も見えていないですが、ワイン同様に面白い試みかと思うので、頑張って欲しいです。
後半/日本酒
続いて日本酒パート
獺祭の今後について沢山お話頂きました。
「獺祭 磨き二割三分」
「獺祭 磨き二割三分 早田」/杜氏のいない日本酒蔵
「獺祭 磨き二割三分 DEX23」/新たな挑戦
「獺祭 磨き二割三分」
看板商品
獺祭さんの中では23%精米がある種の理想的な数値らしく、「綺麗なお酒」というのを目指しているようです。本当にクリーンで引っかからない滑らかな口当たりのお酒です。余韻が長くて切味もすっきり、この味にたどり着くまで大変だったんだろうなぁと思います。
ちなみに、最近だと精米歩合1%のお酒なども技術が発達したおかげで作られ始めました。獺祭さんでも似たようなトライをしているそうで、等外米を利用して精米歩合8%くらいまでは進んでいるとのことです。ただしこうじが作りにくいなどデメリットがあるらしく、まだまだ研究段階とのことでした。
「獺祭 磨き二割三分 早田」/杜氏のいない日本酒蔵
火入れ時間を極力減らしてフレッシュさに焦点を当てたお酒。日本医科大学の早田教授が理論上は熱殺菌なしで可能製法を開発して、早田になったそうです。
通常4分ほどかかる火入れ時間を30秒ほどに短縮することに成功
最新技術で作られたお酒という位置づけでした。
通常の獺祭に比べるとやや香りが控えめ?予測と違います。
フルーティーさが落ち着いていて、かわりに余韻がのびやか、柑橘系やグリーン系の香りが出ているとのことでした。フルーツの香りは通常の獺祭の方が強く感じます。
火入れが少ない分香りがしっかり出るのかなぁと思っていたのですが、やや還元的で閉じ込められているという表現をされていましたね。なるほどなー
ちなみにこういった研究醸造が沢山できるのは、獺祭さんの酒造方式が他の蔵元と違うからです。
杜氏という酒造のトップが全て決めて作るということはせず、分析に分析を重ねて作る分業スタイルのようなやり方をしているそうです。なので、ノウハウの蓄積が他の蔵元と違って共有されて引き継がれるので、伝統技術や職人の腕に寄らない酒造りが可能とのことでした。
どの分野でもこういった科学的な分析によるアプローチのものづくりが出てきそうです。
「獺祭 磨き二割三分 DEX23」/新たな挑戦
新生獺祭を目指して作られた新しいスタイル。
フルーティーな印象で余韻が長く、青竹のような香りというのが印象的でした。そして余韻が一番長くボリューミーな仕上がりでした。
「獺祭エクソソーム」という身体に良い成分が日本酒の製造過程で存在することを発見、日本酒にする頃には消えてしまうわけですが、それを残す及び追加で添付、雑味にならないように調整を加えたものだそうです。また、酵母は通常混合ですが、新生獺祭は協会酵母の1801号だけとのことでした。
また、獺祭さんの新たな挑戦として「獺祭ブルー」というブランド名でアメリカに醸造所を作る計画があるそうです。水が違うから絶対味が変わるという話で、同じものには絶対ならないという話が興味深かったです。
ただし、違う環境でどのように「獺祭」という日本酒を作るかには野心的で、アメリカで蓄積したデータやチャレンジなどから日本の「獺祭」造りに導入したり、相乗効果を発揮できないかという話をしていました。
獺祭ブルーについてコチラに記載ありましたので参考にどうぞ
https://ujpdb.com/archives/19203
やっぱり他の日本酒が海外でどうやって売るかを考えてる中、すでに海外で一定の地位を獲得してる「獺祭」さんは次を考えているなぁと思いました。
まとめ:山口の企業は野心的で強い!
今回たまたまかもしれませんが、話し足りない社長お二人の熱いお話を聞くことができました。
お二人に共通するのは、追求し続けるということ。長州藩の気質かなぁーとか思ってましたw
恐らく多くの方が例会参加前は「獺祭さんの前座で地ビールかぁ」程度だったと思うのですが(旅ガラスはそうでした)、個人的には獺祭よりもコマーシャル少なくビールへの熱意や今後の展望などが野心的で非常に面白かったです(笑)
とはいえ現地の方には「山口地ビール」さんは馴染みがあっても、なかなか関東では見ない名前なんだよなぁ。気軽に飲みたいのでもっと流通量を増やして欲しい反面、今くらいの方がチャレンジしやすいのかなぁとも思います。
獺祭さんもさすがは業界の最先端。
賛否両論あると思いますが、やっぱり美味しいし海外の「日本酒ブーム」作ったのは彼らです。日本酒業界が先細りになっているなか、インバウンドの需要に風穴開けてくれた存在で、今後も更に磨き上げてくれそうです。
今後の展望の語り口調でも山口県らしさが出てますね。
他の県が「できるといいなー」という謙虚な雰囲気に対して、彼らは「やってやるぞー!」という強い野心を感じました。
ぜひぜひ沢山チャレンジして、美味しいを追求して行って欲しいです。
大人の宅飲みワイン&おつまみレシピ研究所|ソムリエ協会例会ログ No.012
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